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ルシー:ルシエンダ・ジェンロウ(秘書)
アレックス:アレクサンドル・バルナー(社長)

完璧な秘書が恋した相手は社長のアレックス。
いつしか恋人としての日々を重ね、幸せな一時を過ごすものの……。


完璧な秘書 1  

 虹色に反射した泡が窓から入る風にそよぎ、手のひらを離れシャボン玉のように一瞬空を舞い、そしてはじける。それを繰り返し楽しみながらルシエンダはジャグジーに浸かっていた。
 ハニーブロンドの髪はバレッタで留められて頭の上に、本来の役目とは異なり遊びに使われている泡が滑る肌は滑らかなクリーム色に輝き、時々泡を吹き消す唇は淡いピンク色に濡れていた。

 一方、断りきれない昼食の誘いに渋々出かけたアレックスは、礼儀に適ったと思われる時間を過ごすと、挨拶もそこそこに昼食の席を立ち、恋人の待つ我が家へと車を走らせた。
 日に焼けた栗色の髪が透けるように輝き、サングラスに隠された顔立ちは、あごのシャープなラインから想像するに、なかなかの美形と思われた。カフスをくつろげたシャツは無造作にまくり上げられ、むき出しの腕はカリフォルニアの太陽に小さい頃から馴染んでいると思える程ムラのない褐色をしている。
 オープンタイプのスポーツカーは、優雅に海岸を走り抜けた。

 秋に移り変わったはずの南カリフォルニアは、今も夏の景色を保ち、ビーチには季節を知らない人々が集まっている。いつもの週末の景色だった。
 やがて砂浜が消え、波打ち際はごつごつした岩だらけの海岸線に変わる。その先は海に突き出た小さな岬になり、数軒の家が点在する。
 その中の一つの私道に入る。センサーがアレックスの車を感知し門を開ける。そこを通り抜け、車庫のシャッターが開くのを待って滑り込む。
 エンジンを切り、車庫の奥から家の中へと入っていった。陽光に反射した海面が光を屈折させ、屋内は白く輝いている。その光の中を、まっすぐにベッドルームに向かった。
 朝、不承不承手放した恋人が待っていてくれるはずだった。が、思いっきりドアを開けたそこは静かだった。
 白いシーツはきれいに整えられており、天井まである窓からは少しだけ涼しくなった風が入ってきている。窓にかけられた薄地の白いカーテンがその風をはらみ柔らかく揺れていた。

「ルシー、ルシエンダ。どこにいる?」
「アレックス、ここよ」
 声のする方向に何があるのかはわかっている。アレックスは口元に笑みを浮かべながらそこへ向かった。磨りガラスの扉を押し開けると、人魚さながらに泡の中でくつろぐ恋人がいた。
「ルシー、悪かったね。独りぼっちにして」
「大丈夫よ。それよりもっと遅くなるかと思っていたわ」
「君を待たせて平気な男などいない。で、ナニしてる?」
「見たままよ。お風呂に入っているの」
「確かにそうみたいだ。僕も入ってもいい?」
「あら、ここはあなたの家よ。ご自由になさって」
「ありがとう」

 二人でひとしきりバスタイムを楽しむと、今度は場所をかえ、ベッドルームでゆったりとした時間を楽しむ。
 最初は柔らかくきれぎれにしか聞こえていなかったしっとりとした声が、少しずつ音が高く細く艶のあるものに変わっていく。その声を追いかけるように、そして追い上げるように続くのは、低く優しく恋人の名を呼ぶ、飢えと欲望に支配された声。
 白いカーテンが風に揺れ、水平線の彼方に沈む夕陽が、部屋の中にセピア色の影をつくる。風が揺らいだのか、シルエットが揺らいだのかわからない時間がそこに流れていた。

(2008.03.01)
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