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坂下 瑛美(さかした あきみ) 22歳
高岡 晧一(たかおか こういち)29歳

二年前の瑛美が二十歳の時。
友達の結婚式で高校卒業以来二年ぶりに会ったはずの先生と、気付いたらベッドの上。
そして……。

センセ 1 

「センセ……それ、だめ……」
「それって?」
「……ん」
「あきみ」
「センセ……」
 全身をくまなく愛撫され、ギリギリのところで耐えている瑛美の耳元に、体をずり上げてきた高岡が囁いた。
「お前、わざとそう言ってるだろう」
 肌で肌を愛撫するその仕種だけで、男の熱くなった身体を意識させられる。同時に自分の肌の熱さをも……。

「だって、センセイでしょう?」
「もうお前のセンセイじゃない。センセイだったこともない」
「いいの。このほうが」
「好きにしろ」
「ええ」
「俺も好きにさせてもらう」
「そうじゃなかったことなんて、ないと思うけど?」
 どこか艶の残るため息と共にそう問いかけた。
「なんだ、まだ余裕だな」
「そんなこと……」

 これでもまだたった二回目の逢瀬、二年ぶりの……。
 二年前も高岡は遠慮などしなかった。


 出会いは瑛美が十七歳で、高岡が二十四歳の時。ただの生徒と教師で、それは二年前に再会するまで何ら変わらなかった。担任ですらなかったのだから。
 再会したのは、二十歳のとき。同級生の結婚式だった。
 新郎新婦ともに中学からの友達で、新郎の担任だった高岡晧一は招待客の一人だった。

 二次会から三次会へと流れ、気付いたときはベッドの上。そんなに飲んだつもりもなかったのに、そこまでの経緯がおぼろげにしか浮かんでこなかった。
 いきなり現実に立ち戻った瑛美の視界に入ってきたのは、鏡板の黒い天井にぼかしたように妖しげに映る男女の裸体。自分自身の姿を直接見るよりも、そして完璧な鏡でないだけに、余計にエロティックで妖しくて、思わず小さく悲鳴をあげていた。

「あきみ?」
 そして何ら抵抗なくごく自然に瑛美の名を口にしたのは、高校卒業以来、今日の午後二年ぶりに会ったばかりの高岡晧一。午後の半ばから、ずっと一緒だった。そして、ずっと飲んでいた……。
「センセ?」
「どうした?」
「あの、どうして……」
「覚えてないのか?」
「……たぶん」
「いい加減な奴だな」
 声に笑いがにじみ出ている。もの凄く親しい間柄なのかと思ってしまう程に。
「……」
 こう言う場合、悪いのは瑛美なのだろうか? 
 どうみても焦りも動揺もなさそうな高岡の雰囲気からして、元生徒を無理矢理連れ込んだという感じがしないし、高岡はそれなりに真面目なタイプだったような気がする。
 若くて独身、バスケットでインターハイに出場経験もあり、そこそこに見栄えがよいこともあって高岡は結構人気だった。瑛美もちょっとは気にしていた。

「えと、わたし……が?」
 やはり、そう聞くのが正しいことのように思えた。
 酔って誰彼構わずなんて愚かしいことはしていないと信じたいけれど、つい自分自身を疑ってしまう。

「んー」
 返答に困っているその様子で、やはりそうなのだと確信した。
 そうでなければ高岡がこんな事をするはずがない。
 
「あの、今何時ですか?」
「二時半くらいかな」
「うわぁ……」
「もしかして帰りたい?」
「だって」
「まだ何もしてないんだけど」
「え?」
「お前、部屋入るなりいきなり脱ぎだしてさっさとシャワー浴びて、そのままベッドに突っ伏してしまった」
「うそ」
「で、俺も酒とタバコのニオイが気になるから、とりあえずシャワーをして出てきたとこ。そしたらお前がいきなり」
「……」

「どうする?」

 真上から覗き込むようにして見下ろしてくる。全然羞恥の欠片も無く……。
 それよりも、目の前の高岡の裸身が気になって、そして触れあっている部分も気になって……。
「どうすると、言われても……」
 高岡には結婚秒読みの恋人がいると、噂があった様な気がする。
 結婚してないのか……?
「瑛美がいやでなけりゃ続けるけど」
 また随分とあっさりと……。
「でも」
 そこでキッパリと断る事が出来なかったのが、わたしのホンネだったのかも……。
「じゃ、そういうことで」
 と言われた直後、瑛美はベッドに押し付けられていた。
「センセ?」
「黙ってろ」
 全く遠慮の気配すらない唇に言葉を止められ、そのあとは、醒めたはずの酔いが新たな目眩とともに戻ってきた。
 瑛美の敏感な場所を探るように繰り返される愛撫に、何度も懇願の悲鳴をあげさせられた。そして、一度も得たことのない快感も、しっかりと覚えさせられた。

 翌朝、あまりにも何もかもをさらけ出してしまったあとでは流石にカワイイ女の子も演じられず、照れながらもなぜか『ありがとう』の言葉とともにキスをして別れた。
 二度と会わないだろうと思っていたから……。

 思い返せば、あれはきっとふられたあとだったからに違いない、と考えた。

 短大を卒業したばかりだった瑛美は、既に就職予定の会社に研修と言う名目で通勤していた。そこで、入社試験以来何度か顔を合わせていた同期の一人から交際を申し込まれた。数ヶ月ぶりの恋人出現にちょっと浮かれていたのは確か。
 一回目のデートで別れ際のキス。そして、どこか期待をはらんだ二回目のデートの日、ふられた。
 理由は、嫌われたわけではなく、元カノがよりを戻したいと言ってきたから……と、ご丁寧に説明をしてくれた。情けないやら腹がたつやらで、少し神経が逆立っていた。落ち込んでもいた。
 そして一週間後の結婚式。
 幸せ一杯の二人を見て、どこかでささくれだった神経が悲鳴を上げたのだと思う。そんな思いを祝福モードの友人達には言えず、きっと高岡に救いを求めた。そして高岡はそれを受け止めた。

 そんなことをあれこれ思い起こしながら、そして覚えてしまった快感を何度も思い出しては身体を震わせながら、記憶の蓋を閉じた。


(2008.03.09)

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